
ABM(アカウントベースドマーケティング)とは何か?仕組み・メリット・実践ステップをわかりやすく解説
BtoBマーケティングでは、従来の「大量のリードを集めて営業が追う」モデルが限界を迎えています。問い合わせ数は増えても受注率は伸びず、営業リソースは分散し、優先順位の判断も難しくなる。購買行動がオンライン化し、意思決定に関わる人数が増えた今、単一の担当者だけを追いかけるアプローチでは商談が前に進みません。
こうした環境で注目されているのが ABM(アカウントベースドマーケティング)です。 ABMは「誰でもいいからリードを集める」のではなく、受注につながりやすい企業を先に定め、マーケティングと営業が一体となって攻略する考え方です。近年はAIによるアカウント分析やスコアリングの精度が向上し、これまで工数の壁があったABMが、少人数のチームでも実践しやすい手法へと進化しています。
本コラムでは、ABMの基本概念から、ターゲット選定、施策設計、営業連携、成果測定、そしてAI時代の導入ステップまでを体系的に整理し、初めてABMに取り組む方でも迷わず実践できるように解説します。
ABM(アカウントベースドマーケティング)とは
ABMは、BtoBマーケティングにおいて近年注目を集めているマーケティング戦略です。しかし、「従来のマーケティングとどう違うのか」「どのような企業に向いているのか」までは、十分に理解されていないケースも少なくありません。
まずは、ABMの基本的な考え方や特徴、従来のリード型マーケティングとの違いを整理し、どのような企業で効果を発揮するのかを見ていきましょう。
ABMの基本的な考え方
ABM(Account Based Marketing)とは、あらかじめ自社が最も成果を出せる企業を選定し、その企業に対して営業とマーケティングが連携しながらアプローチするBtoBマーケティング戦略です。ここでいう「アカウント」とは、営業担当者が接触する個人ではなく、「企業」や「組織」そのものを指します。
つまり、ABMは「誰に売るか」を後から考えるのではなく、「どの企業に売るか」を起点に営業・マーケティングを設計する戦略です。営業とマーケティングが同じターゲット企業を共有し、それぞれが役割を分担しながら関係を深めていくことで、商談化率や受注率の向上を目指します。
リード型マーケティングとの違い
ABMを理解するうえで比較されることが多いのが、従来のリード型マーケティングです。
リード型マーケティングでは、広告やSEO、展示会、セミナーなどを活用し、多くの見込み顧客を獲得します。その後、メール配信やコンテンツ提供などを通じて興味・関心を高め、商談につながりそうなリードを営業へ引き渡します。
このように、広く集客して徐々に対象を絞り込むため、「漏斗(ファネル)型」のアプローチと呼ばれます。
一方、ABMでは最初からターゲット企業を絞り込みます。企業内には、現場担当者、部門責任者、経営層など複数の意思決定者が存在します。それぞれの役割や課題に合わせた情報提供を行いながら、企業全体の合意形成を支援していく点が特徴です。
両者の違いを整理すると、次のようになります。
項目 | リード型マーケティング | ABM(アカウントベースドマーケティング) |
|---|---|---|
起点 | 見込み顧客(個人) | ターゲット企業 |
アプローチ | 広く集客し絞り込む | 最初から企業を選定 |
KPI | リード数・MQL・SQL | 商談化率・受注率・LTV |
営業との連携 | リードを営業へ引き渡す | ターゲット企業を共同で攻略 |
重要なのは、ABMとリード型マーケティングは対立する考え方ではないということです。
多くの企業では、リード獲得施策によって市場全体との接点を作りながら、重要顧客にはABMを適用する「ハイブリッド型」の運用を行っています。
ABMが向いている企業・商材
ABMはすべての企業に適しているわけではありません。
特に効果を発揮しやすいのは、次のような特徴を持つBtoBビジネスです。
- 商談単価が高い
- 契約期間が長くLTVが高い
- 導入まで数か月以上かかる
- 複数の部署や役職者が意思決定に関わる
- エンタープライズ企業を対象としている
例えば、SaaS、ITサービス、製造業向けソリューション、人材サービス、コンサルティングなどはABMとの相性が良いと言われています。一方で、少額商材や個人向けサービスなど、短期間で購入が決まる商材では、リード型マーケティングの方が効率的なケースもあります。自社の営業プロセスや商材特性を踏まえながら、ABMを取り入れるべきかを判断することが重要です。
なぜ今ABMが注目されているのか
ABMという考え方自体は以前から存在していましたが、ここ数年で急速に導入が進んでいます。その背景には、BtoB市場を取り巻く3つの大きな変化があります。
BtoB購買行動と意思決定プロセスの変化
現在では、多くの企業が営業担当者と接触する前に、Webサイトや比較サイト、SNS、ホワイトペーパー、ウェビナーなどを通じて情報収集を行います。営業担当者が初めて接触した時点で、すでに複数のサービスを比較・検討していることも珍しくありません。
つまり、「担当者一人を口説けば受注できる」という時代ではなくなっています。
企業全体を理解し、それぞれの立場に応じた情報を届けることが、これまで以上に重要になっています。
リード数を追う営業・マーケティングの限界
近年のBtoB営業では、Webマーケティングやコンテンツ施策の普及によって顧客との接点をつくりやすくなった一方、営業担当者が対応すべき見込み顧客も増えています。
マーケティング施策によってリード数は増えているにもかかわらず、商談数や受注数が思うように伸びないという企業は少なくありません。その理由の一つは、「リード数」と「受注につながる企業数」が必ずしも一致しないためです。
また、Webマーケティングやコンテンツ施策の普及によって顧客との接点をつくりやすくなった一方、営業担当者が対応すべき見込み顧客も増えています。営業担当者は限られた時間の中で、多数のリードへ対応しなければなりません。その結果、本来優先すべき企業への提案準備やフォローアップに十分な時間を割けなくなることがあります。
ABMでは、「どれだけ多くのリードを集めたか」ではなく、「どの企業に注力するか」という視点で営業・マーケティング活動を設計します。限られたリソースを重要企業へ集中できるため、営業効率の向上が期待できます。
AIと企業データの進化
ABMが実践しやすくなったもう一つの理由が、AIと企業データの進化です。
以前は営業担当者の経験や勘に頼ってターゲット企業を選定することも少なくありませんでした。
しかし現在では、企業データベースやAIを活用することで、既存顧客との類似企業を抽出したり、企業の成長性や変化情報を分析したりできるようになっています。
例えば、
- 営業職の採用を強化している
- 新規拠点を開設した
- 組織変更があった
- 新サービスを発表した
といった情報は、企業が新たな課題を抱えている可能性を示す重要なシグナルになります。AIはこうした情報を分析し、受注につながる可能性の高い企業を優先順位付きで提示できるため、営業担当者は「今アプローチすべき企業」に集中しやすくなります。
このように、購買行動の変化、営業リソースの最適化、AI技術の進化という3つの要因が重なり、ABMは現在のBtoB営業・マーケティングにおける重要な戦略として注目されています。
ABMのメリット・デメリット
ABMは、営業効率や受注率の向上が期待できる戦略として多くのBtoB企業で導入が進んでいます。一方で、すべての企業や商材に適しているわけではなく、成果を出すためには事前の準備や運用体制も重要です。
ABM導入を検討する際は、「どのようなメリットが得られるのか」だけでなく、「どのような課題があるのか」も理解したうえで、自社に合った進め方を考えることが大切です。
ここでは、ABMの代表的なメリットとデメリット、それぞれのポイントを紹介します。

ABMのメリット
ABMには、従来のリード獲得型マーケティングにはないメリットがあります。特に、営業リソースが限られている企業や、高単価・長期検討型のBtoB商材を扱う企業では、その効果を発揮しやすい傾向があります。ABMの特徴は、「量」ではなく「質」を重視し、自社にとって価値の高い企業へ重点的にアプローチできる点にあります。
主なメリットは、次の5つです。
- 営業リソースを最適化できる
- 商談化率・受注率の向上が期待できる
- 営業とマーケティングが連携しやすい
- LTV(顧客生涯価値)の向上につながる
- AIやデータ活用との相性が良い
ABMのデメリット
多くのメリットがある一方で、ABMには導入前に理解しておきたい注意点もあります。ABMは、導入した直後に成果が出る手法ではなく、ターゲット企業の選定やデータ整備、営業・マーケティングの連携体制づくりなど、初期段階で一定の準備が必要です。
主なデメリットは、次の5つです。
- ICP設計やターゲット選定に時間がかかる
- 顧客データの整備が必要となる
- 営業とマーケティングの連携が不可欠
- 商材によっては効果が出にくい
- 成果が出るまで一定の時間が必要
ただし、こうした点は単なるデメリットではなく、ABMを導入・運用する際にあらかじめ押さえておきたいポイントでもあります。 これらの課題を踏まえて、どのようにABMを導入し、運用していけばよいのかについては、後述の第5章「ABM導入の進め方」で具体的な進め方を解説します 。
ICP(Ideal Customer Profile)とは
ABMを実践するうえで重要になるのが、ICP(Ideal Customer Profile/理想的な顧客プロフィール)です。ICPとは、自社の商品やサービスと相性がよく、成果につながりやすい企業像を整理したものです。ABMでは、すべての企業へ同じようにアプローチするのではなく、優先して取り組む企業を選定します。その判断基準となるのがICPです。
ICPの基本
ICPは、「自社にとってどのような企業が理想的な顧客なのか」を企業単位で整理したものです。たとえば、業種や企業規模、抱えている課題などの共通点から、自社の商品・サービスとの相性がよい企業像を明確にします。ICPを設定しておくことで、営業とマーケティングが共通の基準を持ち、優先すべき企業を判断しやすくなります。
ICPとペルソナの違い
ICPと混同されやすいものに「ペルソナ」があります。大きな違いは、ICPが「企業」を対象とするのに対し、ペルソナは「人」を対象とすることです。ABMでは、まずICPをもとにアプローチしたい企業を定め、その企業の中でどのような担当者や意思決定者に働きかけるのかを考えていきます。
なぜABMでICPが重要なのか
ABMでは、限られた営業・マーケティングのリソースを、重要度の高い企業へ集中させます。そのため、「どの企業を優先するのか」という共通の基準が欠かせません。ICPが明確であれば、営業とマーケティングが同じターゲット像を共有しやすくなり、企業選定や施策の方向性をそろえることができます。
また近年は、AIを活用して企業データや行動データを分析し、ターゲット候補を抽出・優先順位付けする手法も広がっています。ただし、AIに「どのような企業を優先すべきか」という基準を与えるためにも、ICPの設計が重要です。
ABM導入の進め方
ABMは、「ターゲット企業を決めて営業する」というシンプルな考え方に見えますが、成果を出すためには事前の設計が欠かせません。
ABM導入では、まず顧客データやターゲットの基準を整えたうえで、優先する企業を選定し、それぞれに適した施策を実行します。その後、成果を検証しながらターゲットや施策を見直していくのが基本的な流れです。特に重要なのは、営業担当者の経験や勘だけに頼らず、データをもとにターゲット企業を選定し、営業とマーケティングが共通の基準で活動できる状態をつくることです。
ここからは、ABM導入の5つのステップを順番に解説します。

顧客データを整理する
ABM導入で最初に取り組むべきことは、ツールの導入ではなく、自社が保有している顧客データを整理することです。多くの企業では、営業活動を通じて蓄積された情報が、名刺管理ツール、展示会リスト、SFA、CRM、MA、さらには営業担当者ごとのExcelファイルなど、複数の場所に分散しています。この状態では、同じ企業に対してどのような接点があったのか、どの部署が商談化しているのかを正しく把握できません。
例えば、「株式会社○○」「(株)○○」「○○株式会社」が別々の企業として登録されていると、営業履歴やマーケティング施策の反応が分散し、一つの企業として分析できなくなります。ABMでは、企業単位で情報を管理することが基本です。そのため、まずは企業名の表記ゆれや重複データを整理し、同じ企業に所属する担当者や商談履歴を一つのアカウントに統合する「名寄せ」が重要になります。
また、データを整理する際には、単に企業情報を集約するだけでなく、「どの情報を管理するか」も見直しましょう。例えば、次のような情報が整理されていると、ABMのターゲット選定や営業活動に活用しやすくなります。
- 企業名・所在地・業種
- 売上規模・従業員数
- 商談履歴・受注履歴
- 接触した担当者や部署
- Webサイト閲覧や資料ダウンロードなどの行動履歴
- 展示会やウェビナーへの参加履歴
データの整備は地道な作業ですが、ABMの精度を左右する重要な基盤となります。近年はAIを活用して企業データを分析したり、ターゲット候補の抽出や優先順位付けを支援したりすることも可能になっています。ただし、AIを有効に活用するためにも、まずは分析の土台となる顧客データを整えておくことが重要です。AIを活用したABMの具体的な方法は、後述の『AIで進化するABM』で詳しく解説します
ICPを設計する
顧客データを整理したら、次に行うのがICP(Ideal Customer Profile:理想顧客像)の設計です。4章で解説したように、ICPとは、自社の商品やサービスによって最も価値を提供でき、継続的な取引が期待できる企業像を明確にしたものです。
ABMでは、このICPを基準としてターゲット企業を選定するため、「どの企業に営業リソースを集中すべきか」を判断する重要な指標になります。ICPを設計する際は、まず既存顧客を分析し、成果の高い企業に共通する特徴を洗い出します。
分析する項目としては、次のようなものがあります。
- 業種・事業内容
- 企業規模・従業員数
- 売上高
- 地域・商圏
- 導入前に抱えていた課題
- 商品・サービスを導入した目的
- 意思決定に関わった部署や役職
- 商談から受注までの期間
一方で、失注した企業や解約した企業を分析することも重要です。
「企業規模は理想的だったが、運用体制が整っていなかった」「導入後の活用イメージが合わなかった」といった傾向が見えてくれば、どのような企業を優先すべきではないかも判断できます。このように、自社と相性の良い企業・そうでない企業を明確にすることで、営業活動の優先順位を付けやすくなります。なお、ICPは一度作って終わりではありません。
近年は、AIで既存顧客や商談データを分析し、自社と相性のよい企業の特徴を見つけることも可能になっています。具体的な活用法は、後述の『ターゲット企業の抽出』で解説します
市場環境や顧客ニーズは変化していくため、商談や受注データをもとに定期的に見直し、自社にとって最適な顧客像へアップデートしていくことが大切です。
ICPを設計した後は、その条件に合った企業を抽出し、優先順位を付けながらABMリストを作成することが重要です。
ABMリストの具体的な作成手順やTier設計、営業とマーケティングが活用しやすいリストの運用方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:【完全版】ABMリストの作り方5ステップ ~成果が出る選定基準・優先度設計・ツール活用まで解説~
ターゲットアカウントを選定・階層化する
ICPが定まったら、その条件に合う企業を抽出し、ターゲットアカウントを選定します。
対象企業を選ぶ際には、業種や企業規模、従業員数、所在地などの基本情報だけでなく、企業の「変化」にも注目することが重要です。
例えば、
- 営業職やマーケティング職の採用を強化している
- 新規事業を立ち上げた
- 新しい拠点を開設した
- 組織変更や役員人事があった
- 資金調達を実施した
といった変化は、新たな課題や投資ニーズが生まれているサインかもしれません。
こうした情報も踏まえてターゲット企業を抽出すると、商談につながる可能性が高まります。
また、すべてのターゲット企業に同じ工数をかける必要はありません。企業の重要度や受注可能性に応じて、優先順位を設定することがABMでは欠かせません。
一般的には、次のような3層モデルで管理されます。
こうしたターゲット企業の抽出や優先順位付けは、近年AIを活用して効率化することも可能です。詳細は後述の『AIで進化するABM』の章でまとめて解説します
Tier1(最重要企業)
売上インパクトが大きく、自社にとって戦略的重要性が高い企業です。営業担当者が個別に調査を行い、専用提案書や個別商談など、一社ごとに最適化した施策を実施します。
Tier2(重点企業)
業界や課題が共通する企業群です。業界別セミナーやホワイトペーパー、課題別コンテンツなど、複数社を対象にした施策を展開します。
Tier3(育成対象企業)
今すぐ商談化する可能性は高くないものの、将来的な顧客候補となる企業です。メールマーケティングや広告配信、MAを活用したナーチャリングによって継続的な接点を維持します。
このように企業を階層化することで、限られた営業・マーケティングリソースを効率よく配分できます。
関連記事:なぜ大手は落ちないのか?を解決する「3層ABM」実践ガイド
企業・役職ごとの施策を設計する
ターゲット企業が決まったら、「誰に」「何を」「どのタイミングで届けるか」を設計します。
ABMでは、企業単位でアプローチする一方で、企業内には複数の意思決定者が存在することを忘れてはいけません。例えば、同じサービスでも立場によって重視するポイントは異なります。現場担当者は、「業務効率化」「操作性」「作業時間の削減」といった実務面を重視します。部門責任者は、「生産性向上」「目標達成」「部門全体への効果」「投資対効果」を重視する傾向があります。さらに経営層は、「事業成長への貢献」「競争優位性」「中長期的なROI」など、経営視点から判断します。そのため、同じ資料をすべての関係者へ送るのではなく、役職や課題に応じて訴求内容を変えることが重要です。
また、企業の検討段階に応じて提供する情報も変わります。
まだ課題を認識していない企業には、市場動向や課題提起を行うコンテンツが有効です。比較検討段階では、導入事例や機能比較資料、ROIシミュレーションなどが役立ちます。導入直前の企業には、導入スケジュールや運用体制、サポート内容など、具体的な情報を提供すると意思決定を後押しできます。
こうした企業・役職ごとの情報提供は、生成AIなどを活用することで効率化することもできます。AIを活用したパーソナライズについては、後述の「コンテンツのパーソナライズ」で詳しく解説します。
関連記事:なぜ役員は動かないのか?ABMの勝率を変える「刺さるコンテンツ」設計のすべて
小規模で始めて改善する
ABMは、大規模な仕組みを一度に構築する必要はありません。むしろ、最初から対象企業を広げすぎると、一社ごとの調査や施策が十分に行えず、従来の一斉営業と変わらなくなる可能性があります。まずは20〜50社程度のターゲット企業からスタートし、営業とマーケティングが連携しながら運用してみることをおすすめします。
運用後は、次のような視点で成果を振り返ります。
- どの企業が反応したか
- 商談化した企業の共通点は何か
- 想定していたICPと実際の受注企業に違いはあるか
- 施策ごとの反応率に差はあったか
これらを定期的に検証し、ICPやターゲット企業、施策内容を改善していくことが、ABM成功のポイントです。
ABMは、一度仕組みを作って終わるものではありません。
市場や顧客の変化に合わせてPDCAを回しながら、自社にとって最適なターゲット戦略へ育てていくことが、継続的な成果につながります。
AIで進化するABM
ここまで、ABMを進めるうえでは、顧客データの整理やICPの設計、ターゲット企業の選定、企業ごとの施策設計などが重要であることを解説してきました。
ABMは、「狙うべき企業を選び、企業ごとに最適なアプローチを行う」という戦略ですが、その精度は扱うデータの量と質に大きく左右されます。対象企業が数十社程度であれば、人の手でも情報を整理できます。しかし、数百社、数千社規模になると、企業情報の収集や優先順位付け、企業の変化を把握するだけでも多くの時間がかかります。 そこで注目されているのが、AIの活用です。
ここからは、ABMがAIによって具体的にどのように進化しているのか、「ターゲット企業の抽出」「アカウントスコアリング」「購買シグナルの検知」「コンテンツのパーソナライズ」の4つの視点から見ていきます。
ターゲット企業の抽出
ABMでは、ターゲット企業の選定が成果を左右するといっても過言ではありません。
しかし、企業データベースから条件検索だけで企業を探すと、「従業員数300名以上」「製造業」「関東圏」といった限られた条件でしか抽出できず、本当に受注につながる企業を見つけられるとは限りません。
そこで活用されるのがAIです。AIは、業種や企業規模、従業員数といった基本属性だけでなく、事業内容や成長率、採用状況、組織体制、過去の商談履歴など、複数の企業データを横断的に分析します。人では気付きにくい共通点まで見つけられるため、自社との親和性が高い企業を効率よく抽出できるようになります。
さらに、人では気づきにくい傾向も見つけられる点がAIの強みです。例えば、「営業職の採用を積極的に行っているIT企業は商談化率が高い」「新工場を建設した製造業は導入率が高い」といったパターンを学習し、優先的に提案できます。これにより、営業担当者はゼロから企業を探す時間を減らし、本当に注力すべき企業へリソースを集中できるようになります。
アカウントスコアリング
ターゲット企業を抽出した後は、「どの企業から優先的にアプローチするか」を決める必要があります。そこで活用されるのがアカウントスコアリングです。
アカウントスコアリングとは、企業ごとの商談化や受注の可能性を数値化し、優先順位を可視化する仕組みです。AIはさまざまな情報を組み合わせて企業を評価します。
AIが分析する情報 | 活用例 |
|---|---|
企業属性 | ICPとの一致度を判断 |
Web閲覧履歴 | 興味関心を分析 |
メール開封・資料DL | 検討度合いを把握 |
商談・問い合わせ履歴 | 営業タイミングを判断 |
企業変化情報 | 優先順位を更新 |
これらを総合的に分析し、「今アプローチすべき企業」を判断します。
営業担当者は、このスコアを参考に活動計画を立てることで、優先順位の高い企業から効率よくアプローチできます。ただし、スコアだけを鵜呑みにすることは避けましょう。
重要なのは、「なぜこの企業のスコアが高いのか」という根拠が分かることです。
営業担当者は、その理由を理解することで、相手企業の状況に合わせた提案や会話ができるようになります。
AIはあくまで判断を支援するツールであり、最終的な営業判断は現場の知見と組み合わせることが重要です。
購買シグナルの検知
企業は、何らかの変化が起きたタイミングで新しいサービスを検討することが少なくありません。このような「変化の兆し」を購買シグナルと呼びます。例えば、営業部門を大幅に増員している企業では、営業管理ツールや営業支援サービスのニーズが高まっている可能性があります。
また、新規事業を立ち上げた企業では、営業体制やマーケティング施策を整備したいと考えているケースもあります。AIは、こうした企業の変化情報を継続的に収集・分析し、営業担当者へ通知できます。これにより、興味を持ってもらえるタイミングで提案できる可能性が高まります。ABMでは、誰に提案するかと同じくらい、「いつ提案するか」が重要です。購買シグナルを活用することで、営業活動の精度をさらに高めることができます。
コンテンツのパーソナライズ
ABMでは、一斉配信のメールや同じ営業資料だけでは十分な成果を得られません。企業ごとに課題や検討状況が異なるため、それぞれに最適な情報を届けることが重要です。AIは、企業属性や閲覧履歴、興味・関心などを分析し、最適なコンテンツを提案できます。
例えば、「製造業には製造業向け導入事例」「SaaS企業には営業DX事例」「経営層にはROIや経営効果」など、企業や役職に応じた情報を出し分けることが可能です。
さらに、生成AIを活用すれば、メールの下書きや提案資料のたたき台、セミナー案内文、営業トークの作成なども効率化できます。
ただし、AIが生成した文章をそのまま利用することは、企業固有の事情を反映できなかったりする場合があるためおすすめできません。AIはコンテンツ作成を効率化する強力なサポート役ですが、最終的には営業担当者やマーケティング担当者が確認・調整することで、より相手企業に響くコミュニケーションになります。
ABMを支えるツール
ABMを継続的に運用するためには、営業やマーケティングを支えるデータ基盤とツールの活用が欠かせません。ただし、「ABMツール」という単一の製品が存在するわけではありません。企業データベース、MA(マーケティングオートメーション)、SFA、CRMなど、それぞれ役割の異なるツールを組み合わせながら運用するのが一般的です。
ここでは、ABMを支える主要なツールと、その役割について整理します。
企業データベース
ABMでは「どの企業を狙うか」が成果を大きく左右します。企業データベースは、そのターゲット選定の起点となる基盤です。 業種・規模・所在地といった基本情報に加え、採用状況、組織変更、新サービスの発表などの変化情報も蓄積されており、ICPに合致する企業を効率的に抽出できます。結果として、精度の高いターゲットリストを作成できる点が大きな強みです。
MA・SFA・CRM
ABMでは、マーケティングと営業が同じ企業情報を参照しながら活動することが不可欠です。そこで、MA・SFA・CRMはそれぞれ異なる役割を担いながら、企業との接点管理を分業します。
- MA:メール配信、コンテンツ提供、Web行動履歴の管理などを通じて、企業との接点を育成する役割を担います。
- SFA:商談進捗、提案内容、訪問履歴など、営業活動の記録と管理を行います。
- CRM:契約情報や問い合わせ履歴を蓄積し、企業との関係性を長期的に管理します。
これらを連携させることで、営業とマーケティングが同じ情報を基点に活動できる統合環境が整い、ABMの精度と再現性が高まります。
データ統合の重要性
ABMでは、企業単位で情報を管理することが基本です。
しかし、名刺管理、展示会リスト、SFA、CRMなどにデータが分散していると、一つの企業として分析できません。そこで重要になるのが、データ統合と名寄せです。
例えば、企業名の表記ゆれを統一し、同じ企業に所属する担当者や営業履歴を一つのアカウントへ集約することで、企業全体の状況を把握できるようになります。
データ基盤が整って初めて、AIによる分析やアカウントスコアリングも正確に機能します。
ABMでは、施策よりも先にデータを整えることが重要だといわれる理由もここにあります。
ツール選定のポイント
ABMツールを選ぶ際は、機能の多さだけで比較するのではなく、自社の運用に適しているかを確認することが重要です。
特に確認したいポイントは次の4点です。
- 必要な企業データを取得できるか
- データの更新頻度と精度は十分か
- SFAやCRMなど既存システムと連携できるか
- AIによるスコアリングや分析の根拠を確認できるか
また、ツールを導入すること自体が目的にならないよう注意が必要です。
ABMを成功させるためには、まず顧客データを整理し、ICPを設計し、営業とマーケティングが共通のターゲット企業を持つことが重要です。その運用を効率化する手段として、自社に合ったツールを選択することが成果につながります。
MA・SFA・CRMとの違いや、ABMツールの評価軸、タイプ別の特徴を詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
関連記事:【ABMツール選定ガイド】導入で失敗しないための評価軸とタイプ別比較
ABMを成功させる運用ポイント
ABMは、ターゲット企業を選定し、施策を実施すれば成果が出るというものではありません。重要なのは、営業とマーケティングが共通の目標を持ち、企業単位で情報を共有しながら継続的に改善していくことです。従来のリード型マーケティングでは、マーケティング部門はリード獲得数、営業部門は受注件数と、それぞれ異なるKPIを追うことも少なくありませんでした。しかし、ABMでは「ターゲット企業との関係を深め、受注につなげる」という共通の目的を持つため、部門間の連携がこれまで以上に重要になります。
ここでは、ABMを継続的に成果へ結びつけるための運用ポイントを解説します。
営業とマーケティングの連携
ABMでは、営業とマーケティングがそれぞれ独立して活動するのではなく、一つのチームとしてターゲット企業を攻略することが求められます。
例えば、マーケティング部門が「優先的にアプローチすべき企業」と判断しても、営業担当者がその背景を理解していなければ、優先順位は上がりません。
反対に、営業担当者が商談の中で得た情報がマーケティングへ共有されなければ、コンテンツや施策の改善にもつながりません。
ABMでは、ターゲット企業を選定する段階から営業とマーケティングが連携し、共通認識を持つことが重要です。
特に共有しておきたい情報は次のとおりです。
共有する情報 | 活用目的 |
|---|---|
ターゲット企業に選定した理由 | 営業活動の優先順位を統一する |
企業が抱える課題や仮説 | 提案内容の精度を高める |
Webサイトやコンテンツへの反応 | 興味・関心の把握 |
営業活動や商談の進捗 | アプローチの重複を防ぐ |
失注・停滞理由 | ICPや施策の改善に活用する |
このような情報を定期的に共有することで、営業は「どの企業に、なぜアプローチするのか」を理解しやすくなり、マーケティングは施策の改善につながるリアルな情報を得られます。
ABMでは、営業とマーケティングが同じターゲット企業を共有し、継続的に情報交換することが成果につながります。しかし、実際には「営業が協力してくれない」「ターゲット企業の認識が揃わない」といった課題に直面する企業も少なくありません。
営業とマーケティングの連携を組織へ定着させる具体的な進め方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:ABMはなぜ「リスト作り」で止まるのか?営業を動かせないABMから脱却する“組織連携”の教科書
アカウント単位のKPI
ABMでは、リード数だけを成果指標にするのではなく、「企業単位」で成果を評価することが重要です。例えば、同じ企業の担当者が複数人資料をダウンロードしていたとしても、リード型マーケティングでは「3件のリード」として扱われることがあります。しかしABMでは、「1社の中で複数の関係者が情報収集を始めている」と捉えます。つまり、評価の対象は個人ではなく企業です。そのため、KPIもアカウント単位で設定します。
代表的な指標は次のとおりです。
KPI | 確認するポイント |
|---|---|
ターゲットアカウント接触率 | 対象企業と接点を持てているか |
アカウントエンゲージメント | 企業全体の関心度は高まっているか |
アカウント商談化率 | ターゲット企業が商談へ進んだ割合 |
受注率 | 商談から受注へ進んだ割合 |
受注金額・LTV | 事業への貢献度 |
なかでも重要なのが「アカウントエンゲージメント」です。これは、企業全体がどの程度自社へ関心を持っているかを表す指標です。
例えば、
- Webサイトを複数回閲覧している
- ホワイトペーパーをダウンロードしている
- ウェビナーへ参加している
- 営業担当者との面談を実施している
- 複数部署からアクセスがある
こうした行動が増えるほど、その企業では検討が進んでいる可能性が高いと考えられます。一人だけが情報収集している状態と、複数部署が情報を確認している状態では、商談化する可能性も大きく異なります。
ABMでは、企業全体の動きを把握することが重要です。
効果測定と改善サイクル
ABMは、一度導入すれば成果が出続ける仕組みではありません。市場環境や顧客ニーズ、競合の動向は常に変化しています。
そのため、施策の実施後は必ず効果を振り返り、改善を繰り返すことが重要です。ここで注意したいのは、「受注件数だけ」で評価しないことです。BtoB商材では、検討期間が数か月から1年以上になることも珍しくありません。
そのため、ABMでは商談化までの中間指標も確認します。
確認したいポイント | 改善につながる視点 |
|---|---|
反応した企業は増えているか | ターゲット選定は適切か |
複数部門が情報収集しているか | 組織内で検討が進んでいるか |
商談化率は向上しているか | 営業アプローチは適切か |
失注理由は何か | ICPや提案内容を見直す必要はないか |
こうしたデータを営業とマーケティングで共有することで、次の改善施策につなげることができます。例えば、「Tier1企業の反応率は高いが商談化しない」という結果であれば、営業アプローチや提案内容を見直す必要があるかもしれません。
一方で、「Tier2企業の受注率が高い」という結果であれば、ICPやターゲットの優先順位を再検討することで、より成果につながる可能性があります。
ABMでは、このような改善サイクルを継続的に回すことが重要です。
営業とマーケティングが同じデータを見ながらPDCAを繰り返すことで、ターゲット選定の精度や施策の質は徐々に高まっていきます。
SalesRadarで実現するABM
ここまで紹介してきたように、ABMでは「どの企業をターゲットにするか」が成果を左右します。しかし実際には、「ICPは作成したものの、条件に合う企業を効率よく探せない」「社内の企業データが分散していて、ターゲット企業を正確に把握できない」といった課題を抱える企業も少なくありません。
そこで役立つのが、企業データベースを活用したターゲット選定です。
ターゲット選定の課題
ABMを始める企業が最初に直面するのは、ターゲット企業の選定です。
企業情報をインターネットで一社ずつ調べたり、営業担当者の経験だけでリストを作成したりすると、多くの時間がかかるだけでなく、判断基準にもばらつきが生じます。
また、社内データが分散していると、同じ企業へ複数の担当者がアプローチしてしまったり、過去の商談履歴を十分に活用できなかったりするケースもあります。
ABMを成功させるには、まず企業データを整理し、ターゲット企業を客観的に選定できる環境を整えることが重要です。
SalesRadarでできること

SalesRadarは、ABMに必要なターゲット企業の選定や企業情報の活用を支援する企業データベースです。業種や企業規模、所在地などの基本情報に加え、採用状況や組織変更などの企業変化情報も活用しながら、ICPに合った企業を効率よく抽出できます。
また、AIによるスコアリングやデータ分析を活用することで、営業担当者が優先してアプローチすべき企業を見つけやすくなります。
営業活動の効率化だけでなく、マーケティング施策の対象企業を選定する際にも活用できます。
ABM運用を支えるデータ基盤
ABMでは、営業とマーケティングが同じ企業情報を共有できることが重要です。
SalesRadarでは、企業データの名寄せやデータクレンジングを行い、企業単位で情報を整理できます。さらに、SFAやCRMとの連携によって、営業活動や商談履歴、マーケティング施策への反応を一つのアカウントとして管理できます。営業担当者は企業全体の状況を把握しながら提案でき、マーケティング担当者も施策の成果を企業単位で分析しやすくなります。ABMを継続的に運用するためには、正確な企業データと情報共有の仕組みづくりが不可欠です。
ABMに関するよくある質問(FAQ)
ABMは営業とマーケティングの成果向上が期待できる一方で、「自社でも導入できるのか」「AIや専用ツールは必要なのか」など、導入前に気になるポイントも少なくありません。最後に、ABMに関してよく寄せられる質問とその回答をQ&A形式でご紹介します。
Q1. ABMはどのくらいで成果が出ますか?
A.商材や業界によって異なりますが、一般的には数か月から半年程度を目安に成果を評価します。ただし、受注件数だけでなく、ターゲット企業との接点や商談化率、アカウントエンゲージメントなど、中間指標もあわせて確認することが重要です。
Q2. 小規模チームでもABMを導入できますか?
A.はい、導入できます。最初から多くの企業を対象にするのではなく、20〜50社程度のターゲット企業から始めることで、限られた人員でも運用できます。AIや企業データベースを活用すれば、ターゲット選定や情報収集の工数も削減できます。
Q3. AIや専用ツールは必須ですか?
A.必須ではありません。まずは顧客データを整理し、ICPを設計したうえでターゲット企業を明確にすることが重要です。その後、運用規模の拡大に合わせてAIや企業データベース、SFA・CRMなどを導入することで、ABMをより効率的に運用できるようになります。
Q4. ABMは新規顧客の開拓だけでなく、既存顧客にも活用できますか?
A. はい、活用できます。ABMは新規顧客の開拓だけでなく、既存顧客との関係強化やアップセル・クロスセルにも有効です。既存顧客の利用状況や商談履歴、企業の事業変化などを分析し、追加提案の可能性が高い企業を優先してアプローチすることで、LTV(顧客生涯価値)の向上につなげられます。また、既存の優良顧客を分析することで、自社と相性の良い企業の特徴を把握し、新規のターゲット選定やICP設計にも活用できます。
まとめ:ABM成功への第一歩は、ICP設計とターゲット選定から

ABMは、見込み顧客を幅広く獲得する従来のマーケティングとは異なり、自社にとって価値の高い企業を見極め、営業とマーケティングが連携して戦略的にアプローチする考え方です。成功のポイントは、高度なツールを導入することではなく、まず顧客データを整理し、ICPを明確にすることにあります。そのうえで、ターゲット企業を適切に選定し、企業ごとの課題や検討状況に合わせた施策を実施することで、営業活動の質と受注率の向上が期待できます。まずは、自社の優良顧客を分析し、「どのような企業が自社にとって理想の顧客なのか」を整理することから始めてみましょう。その一歩が、ABM成功への確かなスタートになります。
この記事の著者
編集部
SalesRadar編集部
SalesRadar編集部は、株式会社FUTUREWOODSが運営する企業データベースサービス「SalesRadar」の公式メディアチームです。3,500社以上のマーケティング支援実績をもとに、ABM・リード獲得・営業効率化に関する最新情報と実践ノウハウを発信しています。
この記事の監修者
SalesRadarユニットマネージャー/法人DBプロ
猪俣詢 (いのまたまこと)
エンジニアとして10年以上、法人データベースの設計・開発・運用に従事。現在はBtoB営業インテリジェンス・プラットフォーム「SalesRadar」のPdMを務める。 データを「作る側」の視点から、名寄せ・法人DB活用・ABM設計を営業・マーケティング現場の言葉に翻訳することを専門とする。中堅BtoB企業のSales Ops・営業企画向けに、法人DBを営業の武器にするための実践知識を発信している。
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